「Grit(グリット)=やり抜く力」について。

村中 毎悟克

2017年8月19日

「IQと学力は関係ない」元マッキンゼー、公立教師の研究者が語る「やり抜く力」とは
- THE ACADEMIC TIMES

その昔、人類は神話を信じていた。自然を恐れ、崇め、何がしかの不可思議な力が働いていると捉えていた。

だが、人類は数字を発明し観察し、およそありとあらゆるあらゆる自然現象を解釈し、技術を発明し地球上のあらゆる生物の頂点に立ち、それらを駆逐し、最後には自分たちを生んだ地球から離れることも実現し、その地球の破壊を始めた。

その原点は即ち科学、または科学的方法である。

(中略)

よく、「科学は物事の起こる理由を説明するもの」と説明されるが、これは間違いではないものの、科学の実態を正確に説明しているとは言い難い。世の中に見られる現象は、一見不思議なことは数多い。これがなぜかを知りたくなるのであるが、直接にそれを誰かに尋ねることで答えを得るのは難しい。聞かれた方がわからないから、適当に答えたのが神話の発祥かもしれない。

それに対して、こうすればこうなる、といった事象を集めることから、原因と結果を探してゆくのが科学的方法である。言いかえれば、究極的な目的であるなぜ (Why) を一端棚上げにして、まずいかなる状態で、どのような (How) 現象が起きているのかを記述することと、どのような条件下で何が起きるかを記録し、それに基づいて因果関係を分析しようとするのが科学である。そのような情報をかき集めて、一定な条件を集めれば特定の結果が得られることを示せるならば、重要な結果を得たと言えようし、その間の科学的説明ができるならば、科学の発展にそれなりの貢献ができたと言えよう。その意味で、帰納法こそが科学の原点である。

- wikipedia「科学」

少なくともこの日本で行われている教育には、「科学」がない。神がかり的な指導を行うとされる指導者による成功物語だけが流布され、汎用性と再現性に欠ける「神話」だけがあった。そして21世紀の今なお、新たな「神話」は次々に立ち上ってくる。これほど社会的な価値があり、顧客からの大きな期待を背負っていながら、教育ほど「神話」を蔓延らせている分野は、なかなか見当たらない。

First, I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before this decade is out, of landing a man on the Moon and returning him safely to the Earth. No single space project in this period will be more impressive to mankind, or more important in the long-range exploration of space; and none will be so difficult or expensive to accomplish.

まず私は、今後10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるという目標の達成に我が国民が取り組むべきと確信しています。この期間のこの宇宙プロジェクト以上に、より強い印象を人類に残すものは存在せず、長きにわたる宇宙探査史においてより重要となるものも存在しないことでしょう。そして、このプロジェクト以上に完遂に困難を伴い費用を要するものもないでしょう。

We choose to go to the moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard, because that goal will serve to organize and measure the best of our energies and skills, because that challenge is one that we are willing to accept, one we are unwilling to postpone, and one which we intend to win, and the others, too.

我々が10年以内に月に行こうなどと決めたのは、それが容易だからではありません。むしろ困難だからです。この目標が、我々のもつ行動力や技術の最善といえるものを集結しそれがどれほどのものかを知るのに役立つこととなるからです。その挑戦こそ、我々が受けて立つことを望み、先延ばしすることを望まないものだからです。そして、これこそが、我々が勝ち取ろうと志すものであり、我々以外にとってもそうだからです。

- John F. Kennedy

私の自宅にある仕事机の頭上には、アポロ11号の月面着陸のポスターが貼られている。誤解のないように言っておくと、私は「Newton」を読んだり、SFを読む人間ではない。

ただただ、人類にとって最も重要で最も難解な「教育」というものを科学し、「呪術」「運」「相性」ではなく、誰もが適切に発達を遂げられるものを生み出したい、と考えている一介の非力な人間でしかない。だからこそ、アポロの挑戦と達成に、強烈な勇気をもらう。

教育を「神話」から解き放ち、あらゆる人間が生まれ育ちに依らず発達していく「科学的方法」を発見し、それを社会に届けていく。社会や文明の進歩が著しい今だからこそ、社会の中・世界の中で二極化が進む今だからこそ、単なる「重要」ではなく、「緊急かつ重要」な超難解なプロジェクトを進行しているつもりでいる。

いつの日か、誰もが適切な発達を遂げられるように。

「グリット」らしき概念への気付き。

これまで、教育に約15年間携わってきました。

集団でも1対1でも教えてきました。特に、生徒と1対1という逃げられないサービスをする中で、顧客から高い評価を頂き、恐縮な程の評判を頂くようになり、私の体一つでは全く対応できない程になりました。

沢山の子供達の発達を実現し、成功体験に立ち会ってきました。同時に、何名かの子供達を上手く発達させられなかった非力を悔やみ、自分自身という人間の属人ゆえの不完全性に気付き、いつの日か完全なサービスを実現したいと思うようになりました。

これが、STORY設立の大きな理由の、二つあるうちの一つです。

後出しじゃんけんのようになりますが、冒頭の記事にある「グリット」の現象については、10年程前から知覚できています。それは私が「浜学園」で講師をしている時から一つの現象として認識できていたので、以下に記載したいと思います。

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教室の近くに有名な水泳教室があります。そこの「選手コース」の子供達は、小5に上がる時に水泳を辞めて浜学園に入塾し、入塾タイミングとしては遅いにも関わらずぐんぐんと成績を伸ばして他の子供達をごぼう抜きし、結果として関西最難関校と呼ばれる中学校に合格していく、という評判を保護者の方から耳にしていました。実際に、その子供達を担任に持った時、同じ現象が起こったことを痛烈に覚えています。

その上で、今度は気をつけて「習い事をかなりの熱量をかけてやっている子供」を注視していくと、水泳の他にも「ピアノ」「バレエ」「野球」「剣道」を随分と熱量をかけてやっている人間が、「地頭」と言われる抽象化能力が多少劣っていても、学ぶ力が備わっていて、結果として目標校に到達していく姿を見ていくことになりました。

つまるところ、「学ぶ力」とは「どこかの環境で養成され、持ち運び可能なポータブルなもの」なのではないか、という仮説が立ちました。その後、10年の時間をかけてより子供達個人が見える1対1の指導をやり続けてきて、ようやくSTORYという場所で、鬼才のインターン生たちと共に、そのメカニズムを一定解明するに至っています(勿論、まだまだ途中ではありますが)。

以下、STORYのSS(Skill/Stance)というロジックを用いて、試しに「グリット」を解釈してみたいと思います。

「Grit(グリット)=やり抜く力」を構成するもの。

「やり抜く力とは、超長期目標に向けた、情熱や忍耐力でスタミナがあることでもあります。やり抜く力は明けても暮れても自らの将来にこだわることです。その週だけとかその月だけではなく、何年もの間 一生懸命に取組み、その夢を実現することです 。やり抜く力は、短距離走ではなくマラソンを走るように生きることです。」

- 冒頭記事より引用

これだけだと、「状態」を指すだけの曖昧な表現ですので、これは「力」ではなく「表出している現象」と捉え、解釈分解して再定義してみます。

  • 中長期の目標設定が行われてそれを達成までブラさないで持ち続けられること。
  • 中長期で熱量が落ちないこと。

であると考えました。

一方で私たちは、子供達の理想状態を大きく二つの状態で捉えております。

  • 子供達が、自分自身にとって適切な人生の選択を自分の意思で行える状態。
  • 子供達が、自分自身が選択した道の途中で必然的に出くわす壁を乗り越え続けていくことができる状態。

前者を、Story Weaving、略してSW、後者を、Stace Building、略してSB、とそれぞれ呼んでおります。

ここでは、あくまでも後者のStace Buildingの理想状態に向けての発達として対応を考えていきます。

私たちは、能力や状態を大きく5カテゴリ・14項目で捉えています。各項目ごとに、フロー×切り口で状態定義を行い、それぞれの状態背景と発達解決策の概要について知見を得てきました、まだまだ不完全ではあるものの、一定納得感が持てる子供達の状態把握・背景把握・解決策の構築までができるようになりました。

私たちが現在用いている5カテゴリ・14項目は、以下のものです。

1:学び

  • 「具体抽象の行き来」
  • 「抽出判断」
  • 「言語」
  • 「Try And Error」

2:PPCA

  • 「目標設定」
  • 「計画」
  • 「振り返り」
  • 「改善思考」

3:動力

  • 「自律」
  • 「追求」

4:補助

  • 「目的的思考」
  • 「正確」
  • 「精密」

5:自己規定

  • 「自己信頼α/β」
  • 「自己肯定感」

このうち、グリットが述べる状態を形成する為にマストになるものとそれぞれの定義は、

  • 「自己信頼α」:劣位状態において自らを信じられる力
  • 「振り返り」:自身の行動を振り返り、プロセスおよび因果関係を把握する力
  • 「改善思考」:改善につながる行動を発散選択実行する力

このようになります。abc3つ全てマストです。

これらが備わっていない場合、

  • aが弱ければ、一度行き詰まった場合に心が折れて熱量減につながる。できると思えず、改善をかけたりTry And Errorを行う意思を失う。
  • bが弱ければ、躓きの理由をいつまでも把握できず、走っても走っても前に進まない状態を生み出す。その内に走り意思を失うことに至る。
  • cが弱ければ、躓きの理由を把握できたとしても、自分自身の思考や行動を変化させていくことができず、躓いた原因となったものを永遠に超えていくことが困難である。

という事象が必ず発現するからです。もちろん他の項目も全てグリットに関わりますが、まずもってマストとして挙げた3項目が強靭でなければ、「動力を維持したまま走り続ける」という前提が担保されません。

水泳、ピアノ、バレエ、野球、それぞれでハードに鍛えられている子供達が持つハイレベルな「学ぶ力」は、小学生にして、既に上記3つのスタンスが強く形成されていて、異なる競技である「学び」においても有効に活かされている、という説明ができます(子供達の中にはbcを無自覚に行っているケースも多いです)。

最もわかりやすい競技として「水泳」を例に挙げて説明します。まず大前提として、「最初から泳げる人間はいない」ということです。つまりその事柄を「できないこと」からスタートしていくのです。これがまず重要です。更に言うなら、自分より年齢が下でも「もっと泳げる子供達」が普通に存在している状態からスタートすることがほとんどなのです(物心がつく前からスタートしている場合を除くと)。

また10級、蹴伸び、からスタートし、面被りクロール、息継ぎクロールと進み、続いて平泳ぎ、バタフライとマスターして行きます。どれも最初からできる人間はいません。徹底して「できない」ものができるようになっていく競技なのです。この軌跡を認知することによって、a:「自己信頼α」が形成されます。

続いて、水泳が上達していくこととはどういうことかと言うと、前回までの自分の泳ぎ方を振り返って、どこが悪かったかを知覚します。そして、次はどうやって泳ごうということを考え、あるいは体で新しいあるべき型を反復し、次の泳ぎに入ります。そしてタイムを計る。これらを、新しい泳ぎ方を身につける工程や、タイムを縮める工程を通じて、延々と繰り返して行きますので、b:「振り返り」c:「改善思考」は、必然的に鍛えられてゆくのです。

そして、水泳の選手コース出身の子供達が、浜学園に入塾します。最初は何クラスもあるうちの下の方のクラスに入れられます。でも彼/彼女たちは「自分は下の人間だ」と諦めることはなく、むしろ平然と「最初はそういうもの」「努力したら上がっていくはずだ」と認識し、学び、振り返り、改善を繰り返して行きます。

結果として、

  • 「自己信頼α」がなく、「自分はどうせやってもできない」と諦めて熱量が下がったり、思考能力が一時的に減少したりする人
  • 「振り返り」「改善思考」がなく、「自分の現時点でのやり方を変えられない」為に、いつまでに実力を向上させることなく現在地に居続ける人

を横目に次々に実力をつけてクラスを上げて、通常では到達不能と考えられる最難関校に合格する、ということが発生するのだと捉えています。

おわりに

さて、ここまでお話しさせて頂くと「ハードな習い事をしてこなかった人はダメなのか?」という疑問が湧いてくるかと思いますが、そうではありません。ハードな習い事をしていてもabcが醸成されていないケースもありますし、そうでなくてもabcを醸成することも可能です。大事なのは、「上記abcが醸成される」ということで、手段それ自体ではありません。

もちろんSTORYでも、abcそれぞれの項目の発達方法について言語化しており、「補助」「価値期待」「価値実感」という3つの手法カテゴリを用いて行っていくのですが、この詳細は別の記事に譲ることとします。ただ一点だけ、人間発達に興味のある方に私からお伝えしておきたいことは、2017年現在においては、この発達に「人間の介在が必須である」ということです。それではまた。

村中 毎悟克

MASAKATSU MURANAKA

神戸大学卒
株式会社STORY 代表取締役

浜学園、リクルートキャリア、プロ家庭教師を経て、STORYを設立。一貫して、人の発達・キャリアに携わり、小学生から社会人までの生きる様を縦軸で見て来ました。STORYを通じて、直面する壁を乗り越えられる強さを持ち、自分らしい道を築き歩めるような人を、社会に送り出していきたいと思っています。

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